コラム:日本の大学の小型人工衛星が熱い、話
宇宙科学技術連合講演会、という宇宙科学の講演会で大学発の小型人工衛星の開発の話をやっている連中の直接の発表をチラッと聴いた。…聴いているだけで熱かった。
川島レイの「上がれ!空き缶衛星」およびその続編の「キューブサット物語」を面白く読んで「東大と東工大はこんなすごいことをしているのか」と驚いた話は昔書いたような気がする。繰り返しになるが、この本は東大と東工大が小型人工衛星を作る最初の部分を描いたドキュメントだ。実に面白い本である。「大学生が人工衛星を本当に作ってロケットで本当に打ち上げて運用する」ということを実現しちまったんだ。ちっとでも科学を知っていれば、これがどんだけすごいことかというのが分かる。
同時に、このジャンルには大きな特徴があると私は思う。それは小型衛星を作っている大学生が、世界の最先端を本当に突っ走っていることだ。基本的にこれまでに、少なくとも日本では学生が人工衛星を作るということはなかった。本当にごくごく最近になってがーっと立ち上がってきたホットなジャンルだ(多分10年の歴史はない)。それなので、この小型衛星を自分達で作る、という研究ジャンルは「やったことがあるヤツ」が存在しない。だから今現在やっている大学生・大学院生が「世界で初めてやっている」状態なのだ。だから作っている大学生・大学院生は、おそらくは指導教官と互角にやりあえるはずだ。なぜならば指導教官は小型の人工衛星を自作するという経験をつんでいないから。
せいぜいJAXAとかNTスペースの連中が「大型衛星なら作ったことがある」というくらいだ。
私を含めて、ほとんどの研究室ではやっていることは世界最先端だとしても、「やったことのある」先人が存在する。私も落下塔による燃焼研究というようなことをやっていて、研究自体はたしかに世界最先端だといって間違いはないが、そしてそれゆえに私は熱中しているが、それでも落下塔での燃焼研究自体はこれまでに腐るほどやられてきて歴史がある。それなので指導教員を代表として「やっている俺よりも詳しいやつ」がたくさんいるのだ。事実、俺は指導教員や経験をつんだ他の研究員に頭が上がらない。極端に表現すれば、俺がやっている落下塔での燃焼研究なんて、過去に行われてきたものの「劣化コピー」にすぎないのではないか、上手くやったとしても「よく出来たコピー」、所詮は亜流の域を出ないのではないかというような予感を漠然と感じている。
これは別に悪いことではなく、最初は先行研究というか、先にあるもののキャッチアップから入るのがセオリーだから当たり前といえば当たり前だが、だが、自分がどうがんばっても自分よりも詳しい連中に小ばかにされるというのはなかなか悲しい。
だが、小型衛星を作っているやつらは違う。今現在、小型衛星を作っている、東大・東工大・日大・航空工専・九州大・九州工大・道工大・東大阪・東北大・香川大なんかの連中は、本当に「今までに誰もやったことがない」ジャンルを学生が自分達でやっているのだ。やつらは自分がやるものがなにかのコピーではなく、今後のコピーの元になるオリジナルをやっているのだ。
俺は経験をつんでいる研究員や教員に対して全く頭が上がらないが、小型衛星をしている学生の連中はJAXAの研究員だろうが指導教員だろうが、対等かそれ以上にやりあえるはずだ。JAXAの研究員も指導教員もやったことがないことをやっているという強みが大きな一点としてあり、そのほかに、小型人工衛星は「軌道に上げて動いたら成功」という、成功か失敗かの基準が明確に存在している。「作って打ち上げて動いたら勝ち」なのだ。そうなったらやった学生は文句なくでかい顔が出来る。
評論家の立花隆の東大講義をまとめた本「脳を鍛える」だったと思うが、大学の学部におけるカルチャーの違いの話が面白かった。「文学部と理学部の数学のジャンルにおいては伝統的に教員は学生の事を尊敬している、それは二十歳そこそこの学生が小説の権威ある新人賞を取るとか、あるいは数学の難問を解いて若くして頭角をあらわすケースがバンバンあるので、教員は成績が悪くても学生をバカにはしない(学生が教員を追い抜く実例があるため)。それに対して、他のジャンルでは学生が若くして結果を出すことが難しいために教員は学生の事を基本的にバカにしている(学生に負けた経験がないので教員は学生をなめている)」
おおそよこんな内容だった。私も実感しているが、学習院の理学部の物理とか、あるいは北大の工学部においては確かに教員は学生の事をバカにしていてほとんどまったく尊敬していない。学習院と北大にいてそれを肌で感じる。…まあ仕方がないとは思う。物理学とか、あるいは工学では、というか、実験系の科学では学生が若くして「明らかにすごい」という結果を出すことが極端に難しいのだ。大学の教員も学生に「やられた!負けた!」ということがないために敬意を払わないのだろう。
小型衛星をやっているやつらは、もう世界の最先端にいてどんなに偉い連中とも互角に勝負をしている。工学のジャンルでここまで学生が勝負できるというのは本当に珍しいことだと思う。多分あと10年もしたら今やっている連中が「古株・権威」になっちまって若い学生を「まだまだ甘いなー」とかバカにしだすだろうからホットな雰囲気は消えると思う。今現在がちょうど生まれてがーっと膨張する、一番熱い時期なのだ。それをちらっとでも眺めたということが、実に面白い。
ウカレンも明日が最終日。体調さえ良ければしっかり聞き込んでおきたい。実に勉強になる、そして面白い講演会だ。
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- 2007/10/31
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